旅のきっかけ
夕飯の後、湯気の立つお茶をすすりながら過ごしていたとき、花菜がぽつりとつぶやきました。

「お母さん、今度の台湾旅、山にも行ってみない?」

「陽明山がいいよ。留学中に行ったけど、空気が違う。景色も…ちょっと別世界だよ」
画面に映し出されたのは、霧に包まれた桜の道と、風に揺れる草原。見た瞬間、胸の奥がふっと軽くなり、行きたい気持ちが自然と湧き上がってきました。
陽明山は台北市北部に広がる国立公園で、四季ごとに花や風景が変わり、温泉や広大な草原も楽しめます。標高が高く、夏でも涼しく爽やか。台北中心部からバスで1時間ほどで行ける、自然好きにはたまらない場所です。
アクセスと到着の印象
朝、MRT士林駅から230番バスに乗り込みます。車窓の外ではビルの間を縫うように走っていた街路が、いつの間にか緑の坂道へ。商店の看板が減り、道沿いに小さな畑や野菜を抱えた人々の姿が見えます。
澄んだ空気に包まれて
終点の陽明山バスターミナルに着くと、ひやりとした空気が頬を撫でました。花菜は「甘い匂いがする!」と深呼吸。たしかに、湿った土と若葉の香りが混じり合い、街では感じられない清らかさがあります。耳を澄ますと、風に揺れる葉のざわめきと鳥の声が、旅の始まりを静かに告げていました。

「空気、ぜんぜん違うね」

「こういう匂い、久しぶりだな」

「すごく澄んでいるわね。鳥の声とか、葉っぱの揺れる音が清々しい。」

登山口とルート選び
登山口を探して歩き出したものの、スマホの地図がうまく動かず、気づけば逆方向に進んでいました。

「え、道が分かれてる…」

「これ、地図の向き逆に見てない?」
登山口を探して歩き出すも、スマホ地図がうまく動かず逆方向へ。近くの売店で道を尋ねると、笑顔で教えてくれました。

「バスから来たなら左よ。今日は少し霧が出るから気をつけてね、「你們慢慢走(ゆっくりおいで)」」
その笑顔に少し緊張が解け、足取りも軽くなりました。
観光情報
陽明山には、草原を楽しむ擎天崗ルートや温泉を巡る地熱谷ルートなど、多彩なコースがあります。初めて訪れる場合は、ビジターセンターで紙地図を入手するか、オフライン地図アプリを利用すると安心です。
霧の花畑との出会い
石畳の道を進むほど霧は濃くなり、世界が白い幕に包まれていきます。足元の小石がこすれる音と、自分たちの息遣いだけが響く中、ふと風が吹き抜けました。

「なんか幻想的…うわ、でもちょっと怖くない?

「大丈夫。前に来た時もこんな感じだったよ」
霧がめくれた瞬間、淡いピンク色の花畑が斜面いっぱいに広がります。花菜とりゅうは歓声を上げ、夢中でカメラを構えました。私はその光景をただ胸に焼きつけ、「自然のサプライズって、こういうことなんだ」と静かに感じます。
季節情報
春(3〜4月)は桜やツツジが見頃で、霧と花の競演に出会えることも。夏は濃い緑、秋はススキの穂、冬は梅と、季節ごとに全く異なる景色が楽しめます。
地熱谷で感じる温泉の息吹
花畑を後にし、緩やかな遊歩道を抜けると硫黄の香りが漂いはじめます。木々の間から白い湯けむりが立ち上り、地面の小さな噴気孔から「ボコボコ」という音が響きます。
温泉の熱が地面の奥から脈打つように伝わってきて、まるで地球の呼吸を間近で感じているようです。

「擎天崗(チンティエンガン)へのルートが人気ですよ。初心者向けで景色もよく、風が通って気持ちがいいですよ。」
受付の女性が丁寧に地図を広げてくれながら、ゆるやかな草原ルートを指さしてくれました。そこで地図の端にあった“地熱谷”の文字に、りゅうが目をとめました。

「擎天崗(チンティエンガン)も良さそうだけど、こっちの“地熱谷”って場所、気にならない?」

「温泉の蒸気がモクモク出てる場所でしょ?行ってみたい!」
私たちは迷わずそのルートを選び、のんびりした遊歩道を進みました。谷に近づくと、空気がふっと変わり、木々の間から湯けむりが立ち上り、硫黄の匂いがほんのり漂ってきます。懐かしさと異国感が入り混じる、不思議な感覚でした。
足湯でひと休み
花菜が興味津々で見つめていた先には、温泉が湧き出て小さな噴気孔がいくつも出ていて、地球の息づかいのような音を立てていました。そのとき、近くで写生をしていたおじいさんが声をかけてきました。

「今日は蒸気が多くて、描きがいがあるよ。風がないと輪郭がきれいに出るからね、昔からこの辺りで絵を描いてるんですよ。あの坂の下に、小さな足湯もあるから寄っていくといい」
手元のスケッチブックには、墨で描かれた温泉の風景は、山の息吹が伝わってくる、すばらしさ、まるでその絵から硫黄の匂いがしてくる臨場感は見事でした。
湯けむりの静寂に包まれて──森の足湯で心ほどける時間
言われたとおりに下っていくと、森の中にぽつんと現れた石造りの足湯がありました。温泉の熱がそのまま引かれていて、湯気が立つ小さな湯船に足を浸すと──じんわりと体の芯まで温かくなってきました。
擎天崗(チンティエンガン)の大草原
最後に訪れたのは、擎天崗の大草原。木製の階段を登ると、一気に視界が開け、どこまでも続く緑の丘が広がります。遠くには水牛の群れがのんびりと草を食んでおり、風が頬を撫でるたびに体の奥まで清々しさが満ちていきます。
風に背中を押されて──ジブリのような草原で見つけた自由
私たちは擎天崗(チンティエンガン)の草原へつきました。そこはどこまでも続くなだらかな緑の丘に、風がさーっと吹き渡る。立ち止まって深呼吸すると、身体の隅々まで風が行き渡るような心地よさがありました。

「ここ……ジブリの世界みたい」
りゅうがバッグから小さなドローンを取り出し、操作を始めました。空の青、草の緑、水牛ののんびりとした姿──まさに絶好の空撮日和です。私たちは草原で草を食む水牛を遠くから静かに見守り、言葉もなくその光景に見入っていました。
大自然の風と静けさに包まれ、ゆっくりと時間が流れていきました。花菜は「こんなに心がほどけるなんて」とつぶやき、私はそよ風の音に耳を澄ませながら、この瞬間が続いてほしいと願っていました。
観光情報
擎天崗は標高約770mの高原で、360度のパノラマが魅力。春から初夏は新緑、秋は金色のススキが見頃です。風が強いことも多いため、軽い防寒具を用意すると安心です。
ハイキングの注意点と持ち物
陽明山は天候が変わりやすく、急な霧や雨が珍しくありません。出発前に天気を確認し、装備を整えることが大切です。

「うん。風も気持ちよかったし、草原の広さがほんとに圧巻だった」

「ただ、あの急な坂を登るルートはちょっとキツかったね…靴、もうちょっとクッション性のあるのにすればよかった」

「あと、売店が少なかったから、次はもっとちゃんと食料持っていこう。お茶屋があったのはラッキーだったけど、ルートによっては全く何もなかったし」

「あと、帰りのバス停、場所がわかりにくかったから、次回はちゃんと地図確認しておこう」
朝市で買ったおにぎりとウーロン茶を持参しましたが、山道には売店がほとんどなく、軽食や飲み物は多めに準備するのがおすすめです。突然の霧や雨に備え、レインウェアや、靴はクッション性のあるものが歩きやすいと感じました。
虫除けスプレーを忘れて少し困ったので、次回は必ず持参しようと思いました。私たちが感じたシンプルな行き方、必須で持っていた方が良いもの、次回は気をつけようと思ったことをまとめてみました。
必須アイテム
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飲み物と軽食(ルートによっては売店がない)
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クッション性のある靴、レインウェア
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春夏は虫除けスプレー
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帰りのバス停の位置を事前に確認
所要時間の目安
擎天崗〜地熱谷〜ビジターセンターを巡るルートは半日程度。景色や花をじっくり楽しむなら1日コースもおすすめです。
陽明山基本情報
旅行計画に役立つ、陽明山の概要です。
項目 | 内容 |
---|---|
所在地 | 台北市北部 |
アクセス | MRT「士林駅」から230番バスで約50〜60分 |
入園料 | 無料(一部温泉施設は有料) |
主な見どころ | 地熱谷、擎天崗草原、冷水坑温泉、花季イベント |
ベストシーズン | 春(桜・ツツジ)、秋(ススキ)、冬(梅) |
下山後のひととき
下山後、夕陽に照らされた山道を歩き、「草山小館」へ向かいました。木の看板と厨房から漂う香り、店先の草花が風に揺れ、自然と心がほどけます。
テラス席からは、夕焼けに染まる山々が一望でき、柔らかな光が旅の終わりを包みました。
私は金柑茶、花菜はローゼルティー、りゅうは台湾ビールを注文しました。
湯気と香りが立つ干し椎茸入りのおこわを口にすると、疲れがゆっくり溶けていきます。
スマホに映る草原の写真を眺めながら、家族で過ごす時間こそが何よりの贅沢だと感じました。

「……これ、まさに朝のバスでおばあちゃんたちが話してた香菇油飯(しいたけおこわ)だよね」

「これ、今日の山歩きのごほうびだね」

「いやいや、俺のドローン映像もごほうびに入れてよ」
まとめ|台北から日帰りで味わう大自然
陽明山は、台北市内からわずか1時間で訪れられる本格的な自然の宝庫です。花畑や草原、湯けむり漂う谷など、訪れるたびに違う表情を見せてくれます。季節ごとの景色を想像しながら、自分だけの“癒しの瞬間”を探しに出かけてみてください。
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