「これ見てよ、台北に清朝時代の家屋がそのまま残ってるんだって」大学で建築を学ぶ息子・りゅうが、日本にいるとき、パソコンの画面を見せながらそう話してきました。
そこに映っていたのは、赤レンガ造りの伝統的な四合院建築「林安泰古厝民俗文物館」でした。「しかもね、段差も少なくて庭も広い。おばあちゃんにも無理なく見てもらえると思うんだ」と意気揚々として話します。
その一言が、今回の三世代台湾旅行のきっかけとなりました。母は若い頃に一度だけ台湾を訪れたことがあり、孫のりゅうに思い出話をよくしていました。
「私も、もう一度行ってみたい」という願いと、りゅうの学びたい情熱が重なり、三人での旅が決まりました。観光地をたくさん巡るのではなく、ひとつの場所をじっくり訪れる旅。そんなテーマが自然と形になっていきました。
MRT圓山駅から歩いて、時の流れが変わる場所へ
MRT圓山駅を降り、新生公園の木陰を母とゆっくり歩きます。都会の喧騒から少し離れただけで、空気が柔らかくなり、まるで時間が緩やかに流れているようでした。

「ほら、見えてきたよ!」
門をくぐった瞬間、広がる中庭と四方に配された建物に、母は目を細めて何だか懐かしそうに子供ように喜んでいました。段差が少なく、ベンチも多い庭園は高齢者にもやさしく、解説パネルを読みながら歩くだけで学びと癒しが同時に訪れました。

「まるで絵本の世界に迷い込んだみたいね」
駅から現地までの道のりと雰囲気
MRT圓山駅からは徒歩10分ほど。途中の新生公園は木陰が多く、ベンチも整備されているので、高齢者や子連れでも休みながら向かえます。
私たちは母と一緒に木々の香りを感じながら歩き、都会の中心にありながら別世界に入ったような感覚を覚えました。
高齢者と一緒でも安心なポイント
林安泰古厝は段差が少なく、園内にはベンチも多いため、母のように足腰が弱い人でも無理なく見学できます。途中でスタッフが声をかけてくれることもあり、「観光地」というより「人を迎える家」のような温かさが印象的でした。
歴史と手仕事が再生させた空間
林安泰古厝は、もともと別の場所に建てられていたものを解体・移築した建物です。案内板には、清朝時代に福建から渡った林家の歴史や、都市開発で失われかけた家屋を保存するために再建した経緯が記されていました。
実際に木材を触れると、時を超えて伝わる手仕事の温もりがありました。瓦は新調されていますが、多くの柱や扉は解体時のものを再利用しています。
職人たちが“暮らしごと残そう”とした意思が伝わり、単なる展示以上の“生きた歴史”を感じました。

「柱や梁がそのまま残されているんだね」
再建の背景にある物語
この建物は都市開発で取り壊されそうになりましたが、当時の職人や保存活動家の尽力により、一度解体して新しい土地に移築されました。
柱や梁を丁寧に番号を振り直し、昔のまま組み上げていった姿を想像すると、文化を残す執念と愛情に胸を打たれます。
建築を学ぶ視点からの発見
息子のりゅうは、光や風の取り込み方に驚いていました。「図面だけでは分からないものがある」と彼は言います。実際、縁側に座ると自然光がやわらかく入り、風が通り抜け、建物が“生きている”ことを肌で感じられました。
暮らしの匂いが残る建物の内側
屋内に入ると、螺鈿細工の家具や梁の彫刻が目を引きます。ガイドブックの写真以上に、そこには人の暮らしの温もりが残っていました。
縁側に座り庭を眺める母の姿を見て、私は「昔の人もこうして季節を感じていたのかな」と想像を膨らませました。

「図面だけじゃわからないことが、光や風の流れで全部見えてくる」
りゅうの言葉に、母も「こうして残してくれた人がいるのはありがたいね」と頷きます。親子三世代でこの時間を共有できること自体が、過去と今をつなぐ贈り物のように思えました。

「こうして残してくれた人達がいるって、ありがたいことね」
家具や装飾から感じる生活の息づかい
螺鈿細工の家具や梁の彫刻は美術品のように美しいのですが、どこか“日常に使われていた”実感が残っています。母は「こういう家具に囲まれて、昔の家族も日々を過ごしていたのね」と呟き、時代を超えて人の暮らしが浮かび上がりました。
観光客に嬉しい工夫
展示説明は中国語だけでなく英語・日本語も併記されているため、外国人旅行者にも理解しやすいです。写真撮影も可能で、歴史と現代の融合を旅の思い出として残せるのが魅力でした。
池のほとりに咲く蓮が教えてくれたこと
庭園の奥に進むと、小さな池に蓮の花が咲いていました。母は目を細め「この花、大好きなの」と嬉しそうに見つめます。母はまるで自分の人生を重ねているようでした。

「泥に咲いても清らかなまま強く生きるのね」

「見た目は儚いけど、地中にしっかり根を張ってる。強いんだね」
りゅうは、建築を学ぶ目線から、自然の構造美に気づいていました。静かな池の水面に映る蓮を見て、私は「今、この時間があること」への感謝で胸が満たされました。
蓮の花に重なる人生観
母が「泥に咲いても清らかでいたい」と語ったとき、りゅうは「地中の根が強いからだね」と返しました。世代を超えた感性が、ひとつの花を前に自然に交わる――この瞬間が、家族旅行の醍醐味でした。
写真撮影のおすすめスポット
池のほとりは写真愛好家にも人気の場所。水面に映る建物や花は、朝の光が柔らかく差し込む時間帯が特に美しく、SNS映えする一枚が撮れます。母も蓮を背景にした写真を撮って、帰国後も大切に眺めています。
心をほどく一皿──欣葉台菜創始店で味わう本物の台湾
見学の後、りゅうの提案で「欣葉台菜創始店」へ。母の足を気遣うスタッフがすぐに昇降椅子を用意してくださり、母も安心して食事を楽しめました。
蒸し魚や野菜料理は素材の味が際立ち、母が懐かしそうに箸を進めます。店員さんの「お母さまにやさしい味をお作りしますね」という言葉に、私たちも胸が温かくなりました。
どの料理も優しい味わいで、日本人にも馴染み深いものばかり。家族三人で“台湾のやさしさ”を食卓でも感じられたひとときでした。

「昔の私の味に似てるわ」
注文した料理と味の印象
私たちは蒸し魚・青菜炒め・台湾風の煮込み料理を注文。どれも塩分控えめで、母が「身体に優しい味ね」と喜んでいました。りゅうは「素材の味が活かされている」と感心し、私も「日本人の口にも合う」と思いました。
サービスと安心感
店員は日本語で対応してくれ、アレルギーの相談にも丁寧に答えてくれます。母が階段を上がるのに不安を感じたときも、スタッフがすぐに昇降椅子を準備。バリアフリーの意識が徹底されていることに感動しました。
・MRT圓山駅から徒歩約10分(新生公園隣)
・入館料:無料
・開館時間:火〜日曜 9:00〜17:00(月曜休館)
・敷地はバリアフリー対応、車椅子での見学も可能
・MRT中山駅から徒歩約8分
・日本語メニュー・日本語対応スタッフあり
・予算:1人あたり500〜800元前後
・予約推奨(公式サイト・電話)
・エレベーター完備で高齢者も安心
台湾のやさしさに触れた、静かな一日
この日の旅で心に残ったのは、単に建物や料理を楽しんだことではなく、「文化は形だけでなく、人の思いも受け継がれていく」という実感でした。
林安泰古厝に込められた保存の努力、蓮の花に重ねた母の人生観、欣葉で受けた心遣い──どれもが台湾の“人のやさしさ”に繋がっていました。
台北観光といえば夜市や九份が定番ですが、静かに過ごす一日にも格別の価値があります。特に高齢の方や子連れ旅行でも安心して楽しめる場所として、林安泰古厝と欣葉台菜創始店はぜひ訪れてほしいスポットです。
派手さはなくとも、家族で過ごしたこの時間は、私たちにとってかけがえのない宝物になりました。
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