「お母さん、今日って……あの渓谷、行く日だよね?」
台北駅で早朝の列車に乗り込むとき、娘の花菜が目を輝かせて聞いてきました。向かったのは、私がずっと憧れていた台湾・花蓮県の国立公園、太魯閣渓谷(タロコ峡谷)です。
タロコ峡谷を選んだのは、「自然の圧倒的なスケールを家族で体感したい」という思いからでした。台北の都市観光とは違う、大地の息吹を感じられる場所。SNSで見た写真の美しさだけでなく、実際に歩き、触れ、音を聞くことでしか得られない体験を求めていました。
台北から花蓮までは約2時間10分。列車が都市部を抜け、山の稜線が迫ってくると、窓の外の景色が一気に旅の空気へと切り替わっていきました。
りゅうはカメラを構えて何度もシャッターを切り、花菜は窓に顔を近づけて海沿いの青さに見入っています。私も、これから始まる時間を思うと胸が高鳴りました。
台北から花蓮へ向かう列車の車窓。都市部を抜け、山や海が近づくにつれて、旅気分が自然と高まっていきます。
- 訪問時期:2025年10月中旬
- 滞在時間:約6時間
- 同行者:母・成人した娘と息子
- 体力レベル:★★☆☆☆(普段歩ける人なら無理なし)
タロコ峡谷への行き方と基本情報
タロコ峡谷は台北から日帰りも可能ですが、移動時間を考えると余裕を持った計画が大切です。私たちが実際に使ったルートと運賃、所要時間を記録しておくので、スケジュールを立てる際の参考にしてください。
台北から花蓮へのアクセス
私たちは台北駅から台鉄の自強号で花蓮駅へ向かいました。チケットは事前にオンラインで予約しておいたため、当日は慌てることなく乗車できました。
- 所要時間:約2時間10分
- 運賃:大人440元、子ども220元(2025年10月時点)
- おすすめ座席:進行方向右側(海側)
花蓮駅からタロコ峡谷へ
花蓮駅からは302番バスで峡谷へ向かいました。1日乗車券を購入すると、途中下車しながら巡れるのが便利です。
- バス番号:302番
- 所要時間:約1時間30分
- 運行間隔:約1時間に1本
燕子口(スワローグロット)で感じる圧倒的なスケール感
最初の目的地は燕子口。岩壁には無数のツバメの巣が点在し、その間を舞う姿が名前の由来だそうです。
この遊歩道は、かつて日本統治時代に開削された道路の一部。大理石の断崖を削り、トンネルを掘って作られた道は、当時の技術力の高さを物語っています。現在はヘルメットの着用が推奨されており、ビジターセンターで無料貸し出しもあります。
トンネル沿いの遊歩道から見下ろす渓谷は、思わず息をのむほどの深さ。足元から伝わる水音が、地響きのように身体を包み込みました。
花菜が「ここって、人間が本当に小さく感じるね」とつぶやき、りゅうは「ドローンじゃなくても、この迫力は十分伝わるよ」と夢中でシャッターを切っていました。
私も一瞬、風の音すら遠くなるような静けさに立ち尽くし、時間の流れまでゆっくりになったように感じました。

燕子口の遊歩道は、切り立つ岩壁のすぐ横を進みます。写真以上に、実際は迫力のある空間でした。
次の目的地:砂卡礑(シャカダン)トレイルへ
その後は、りゅうがSNSで見つけた砂卡礑トレイルへ。バスを降りると、空気が少しひんやりと変わり、緑の匂いが濃くなっていきます。
入口は観光バス停から徒歩3分ほど。看板は小さく、事前に場所を確認しておいて正解でした。
砂卡礑トレイル|清流と岩壁の道を歩く
赤褐色の岩壁と透明な清流が並行して続く道。全長約4.5kmありますが、私たちは体力と時間を考えて往復2kmほどで折り返しました。
歩行距離と所要時間の目安
- 往復2km:約1.5時間(写真撮影含む)
- 往復4km:約2.5〜3時間(休憩含む)
- 全長4.5km往復:約4時間(じっくり歩く場合)
私たちが歩いた2kmコースでも、川辺に降りられる小道や巨岩のアーチ、地層のグラデーションなど見どころは十分。家族連れや初心者には、無理せずこの距離で楽しむことをおすすめします。
一歩足を踏み入れると、湿った空気に草の香りが混じり、頭上には岩のアーチ、足元にはコバルトブルーの流れが広がります。午前中は順光で水の色が特に美しく映ります。

砂卡礑トレイルでは、岩壁と清流がすぐ手の届く距離で並行して続きます。水の透明度と谷の静けさが印象的でした。
家族で感じた”自然との対話”
川辺では花菜が水切りに挑戦し、りゅうは小魚を探して夢中に。私は苔で一度ヒヤッとしましたが、りゅうの咄嗟の支えで転ばずに済みました。
「靴、もっと滑りにくいやつを持ってくれば良かったな。助かった、ありがとうね」
「でもケガしなくて良かったよ。こういうのも、あとで思い出になるよね」
地元の方が「この川の水は昔、飲料水として使われていた」と教えてくれました。その話を聞いてから眺める清流は、また違った表情を見せてくれます。観光地としてだけでなく、暮らしと共にあった自然として感じられたのが印象的でした。
実際に困ったこと・事前に知りたかったこと
① トイレ問題
トレイルに入るとトイレは入口付近のみ。途中で気づいて焦ったので、出発前に必ず立ち寄ることをおすすめします。
② 靴の選択ミス
普段履きのスニーカーでは苔のある場所で滑りそうに。トレッキングシューズがあれば安心でした。
③ 日焼け対策不足
11月でも日差しは強く、帽子だけでは不十分。日焼け止めとサングラスがあると快適です。
④ 現金の準備
谷間のカフェや売店は現金のみのこともありました。小額紙幣を多めに持っていくと安心です。
訪れる季節による違い
私たちが訪れた10月中旬は、気温が20〜25度と過ごしやすく、観光客も夏より少なめでした。地元の方によると、季節ごとに峡谷の表情は大きく変わるそうです。
- 春(3〜5月):新緑が美しく気候も穏やか。ただし雨が多い時期のため、増水に注意
- 夏(6〜8月):暑さと観光客のピーク。水遊びには最適だが、混雑を覚悟
- 秋(9〜11月):気候が安定し、混雑も緩和。初めて訪れるならおすすめの時期
- 冬(12〜2月):気温が下がり雨も多め。防寒具と雨具は必須
寄り道のご褒美|谷間の隠れカフェ
トレイルの終点近くで、売店の女性が「上にカフェがあるよ」と声をかけてくれました。急な石段を登ると、木造の小さな小屋と谷を見渡せるテラスが現れます。

トレイル後に立ち寄った谷間の小さなカフェ。歩いてきた道を見下ろしながら、しばらく景色を眺めていました。
手作りの金柑茶と梅ジュースでひと息
金柑茶の甘酸っぱさと、梅ジュースのすっきりした酸味が、歩き疲れた体に染み渡りました。
花菜が「景色と一緒に飲むから、もっと美味しく感じるね」と笑い、りゅうは静かに写真を撮り続けていました。
眼下には、川の水音が心地よく響き、頬をなでる風が汗をすっと引かせてくれます。遠くの山肌が夕日に照らされて黄金色に染まっていく様子に、言葉を忘れて立ち尽くしました。
持っていって良かったもの・あればもっと良かったもの
実際に歩いてみて、「これは持ってきて正解だった」と思うものと、「あれば良かったな」と感じたものがありました。次に訪れる方の参考になればと思い、リストアップしてみます。
持っていって良かったもの
- 防水バッグ:川辺で水しぶきがかかることも
- 軽食と飲み物:峡谷内に売店が少ない
- 虫除けスプレー:トレイルでは蚊が多い箇所あり
- ウェットティッシュ:手を洗う場所が限られる
持っていけば良かったもの
- 偏光サングラス:水面の反射が強く、目が疲れた
- 薄手の長袖:トンネル内は思ったより冷える
- 小さな座布団:休憩時に岩に座ると冷たい
私たちの実際のスケジュール
- 7:30 台北駅出発
- 9:40 花蓮駅到着
- 10:00 302番バス乗車
- 11:30 燕子口散策(約1時間)
- 13:00 砂卡礑トレイル(往復約2時間)
- 15:30 谷間のカフェで休憩(約45分)
- 16:30 帰りのバスに乗車
- 18:00 花蓮駅着
余裕を持ったスケジュールにしたことで、焦らずゆっくり楽しめました。
よくある質問
Q. 子連れでも大丈夫?
A. 小学生以上なら問題ありません。ただし川辺や岩場では目を離さないように。交代で写真を撮るなど、余裕を持った行程がおすすめです。
Q. 雨が降ったらどうなる?
A. 落石や増水の危険があるため、トレイルが閉鎖されることもあります。天気予報は必ずチェックし、無理をしない判断が大切です。
Q. 英語は通じる?
A. ビジターセンターや主要スポットでは英語が通じました。バスの運転手さんは中国語のみの場合もあります。
Q. 食事はどこで?
A. 峡谷内には飲食店がほとんどないため、軽食を持参するか、花蓮市内で済ませるのがおすすめです。
まとめ|心に残る”音のない時間”
帰りのバスで、花菜が「いっぱい歩いたのに、不思議と疲れてないね」とつぶやきました。渓谷の空気と水音が、心の奥を静かに整えてくれたように感じます。
タロコ峡谷で心に残ったのは、写真には写らない体感の記憶でした。岩を打つ水音、谷を抜ける風、家族の何気ない会話、地元の人の温かな声、ガイドブックにはない感動こそ、旅の一番の収穫です。
もし台湾で1日だけ自然に身を委ねるなら、この渓谷はきっと、あとから何度も思い出したくなる旅の記憶を残してくれるはずです。
台北観光の合間に、少し自然に身を置きたい人には、日帰りや1泊で行ける場所もおすすめです。実際に歩いて感じたスポットをまとめています。


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