親子で巡る九份・十分の思い出旅:私たちだけの台湾文化体験記

台湾文化と歴史

「ママ、次の家族旅行は台湾の九份と十分なんだよね?」娘の花菜が目を輝かせて私に尋ねてきた朝、私は少し特別な旅になる予感がしていました。息子のりゅうは「台湾留学中に九份へ行ったけど、観光地としてしか見てなかったな」とぽつり言いました。

今回は、家族三人で台湾の歴史や文化を肌で感じながら、ガイドブックには載っていない“私たちだけの物語”を見つける旅にしようと心に決めました。

列車に揺られて、台北から山間の町へ

土曜の朝、台北駅から瑞芳(ルイファン)行きの列車に乗り込みました。つてこの路線は、鉱山から金を運ぶために整備され、多くの人々が夢と希望を抱いてこの町々を目指したのです。戦前の日本統治時代、九份は「黄金の町」と呼ばれ、山肌にはいくつもの鉱夫の姿があったといいます。

花菜
花菜

「わぁ、だんだん景色が変わっていく……すごい、こんなに緑が広がってるんだね!」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「台湾に留学してたとき、こういう景色の良さ、ちゃんと味わってなかったかも」

列車がトンネルを抜けるたび、車窓の向こうに広がる深い緑と霧がかった山々が見えてきました。花菜は「まるで映画のワンシーンみたい!」と声を上げ、私はその無邪気な反応に思わず笑ってしまいました。りゅうはスマホを置き、珍しく静かに景色を見つめていました。「台北の都会とは全然違うね」と呟く彼の横顔に、旅が家族の心をほどいていくのを感じました。

九份の石段で、時を巻き戻す町歩き

視線の先には、赤い提灯が幾重にも連なり、山肌に沿って並ぶ古い家々が肩を寄せ合うように建っています。九份の石段を一歩ずつ登るたび、靴の裏に伝わるひんやりとした感触と、石の隙間に咲く小さな花に気づきました。

私は、昔の鉱山町の面影を感じる古い家並みや、窓越しに見える手作りのランタンに心を奪われました。裏路地で偶然見つけた骨董品店では、戦前の字体が残る看板を実際に触らせてもらい、店主のおじいさんから「この町の歴史は石段の数だけあるよ」と教えてもらいました。

花菜
花菜

「この坂道、どこまで続くの?」と息を切らしながらも楽しそう。

Luluco
Luluco

「この町は、もともと金鉱で栄えたの。19世紀末に金が発見され、日本統治時代には台湾有数の鉱山町だったんだよ。ほら、見て。あの建物、木枠の窓や瓦屋根が残ってるでしょ?」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「へえ……俺、台湾に留学してたのに、そういう歴史のこと、全然知らなかったな」

Luluco
Luluco

「ほら、この看板、昔のままなんだよ。触ってごらん」

花菜
花菜

「歴史がちゃんと残ってるんだね……」

九份の町並みは、ただ古いだけではありません。一つの時代が去った後も、風と雨に洗われ、静かに息づいてきた文化がそこにあるのです。その空気を肌で感じたとき、私たちはガイドブックには載らない物語に、そっと触れたような気がしました。

茶館での休息、文化を感じるお茶時間

石段を登り切った先の茶館に入りました。古い梁と窓枠が何とも言えないレトロな味わいを見せています。そこに立ち込める茶葉の香りがアロマのように優しく迎え入れるかのように漂っています。

Luluco
Luluco

 「金萱茶は、ほんのりミルキーな香りが特徴なんだって」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「ママ、詳しいじゃんwww」

花菜
花菜

「こういう静かな時間、台湾で過ごせるなんて思ってなかった」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「うん、俺も。学生のときは食べ歩きばっかりだったからな」

茶館に入ると、店内に漂う茶葉の香りと、窓から差し込む柔らかな光に包まれました。店員さんが淹れてくれた金萱茶は、初めて味わうミルキーな香りがします。花菜は「お茶って苦いイメージだったけど、これは甘い香りがするね」と驚いていました。

私自身も、台湾でお茶を飲む時間がこれほど豊かだとは思っていませんでした。店主から「このお茶は標高1000mの山で育てている」と教えてもらい、茶葉の産地や淹れ方について家族で質問攻めになりました。りゅうも「日本のお茶と全然違う」と感心していました。

ただお茶を飲むのではなく、私たちは台湾の文化と、人と人の間に流れる穏やかさを分けてもらっている、そんな贅沢な気がしました。

雨の九份、しっとりと幻想的な夜を歩く

夕暮れ時、九份にしっとりとした雨が降り始め、私たちは3人で一つの傘をさして坂道を歩きました。濡れた石畳に赤い提灯の灯りが映り込み、まるで幻想的な絵画の中に迷い込んだようです。

花菜
花菜

「雨の音が心地いいね」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「このノスタルジーな雰囲気、スマホじゃ伝わらないな、実際に歩いてみないと。でも何故こんなに屋台やグルメが多いんだろう」

Luluco
Luluco

「金鉱の町として栄えた時代、鉱山労働者たちが手軽に食べられる食事を求めたことから発展したようよ。山間の狭い町で大型の店が建てられず、石段沿いの屋台が自然に増えていったのね。」

屋台で買った熱々の芋団子を3人で分け合いながら食べ歩きをしました。その時、地元の人から「昔は鉱山労働者のために屋台が増えたんだよ」と教えてもらい、歴史と今がつながっていることを実感しました。

九份の屋台は、かつて金鉱の町として働く人々を支える生活の一部から始まり、山間の地形とともに独自の食文化を育んできたと知り、私は胸が熱くなりました。観光地として再生した今も、その背景には人々の暮らしの歴史がしっかり息づいているのです。屋台一つひとつに、ただの観光以上の物語が隠されているのだと、改めて感じたのです。

十分の朝、天燈に願いを託して

翌朝、私たちは十分(シーフェン)の町へ足を踏み入れました。そこでは線路沿いに並ぶ店々と、空を見上げる人々の姿が目に飛び込んできました。花菜が興味深そうに線路をのぞき込みます。細い線路の両脇には、色とりどりの天燈(ランタン)が吊るされ、時折列車がごとごとと通り過ぎる音が、のどかな町に響き渡ります。

花菜
花菜

「十分(シーフェン)って線路沿いの町なんだね」

十分の朝、線路沿いの小さな天燈屋さんで、私たちは真っ赤な天燈を選びました。店主のおじさんが「願い事は何でもいいよ」と笑顔で筆を渡してくれて、花菜は「家族がずっと仲良くいられますように」、りゅうは「新しい挑戦がうまくいきますように」とそれぞれ真剣に書き込みました。

Luluco
Luluco

「家族の健康」「新しい挑戦」「これからも旅を重ねられますように」

火を灯して天燈がふわりと空に舞い上がる瞬間、私たちは手を取り合って空を見上げました。店主から「昔は山で働く人たちの無事を祈るためだった」と聞き、今も願いが空に届くような気がして胸が熱くなりました。

花菜
花菜

「ねえ、ママ、どうして天燈って飛ばすの?」

Luluco
Luluco

「昔、十分は山間の鉱山の町だったから、危険が迫ったときや無事を知らせるために、こうして空に合図を送っていたんだって。それがだんだん、人々の願いを込めて天に届ける文化になったの」

りゅうが空を見上げ、少し真面目な表情を見せます。普段はふざけてばかりの彼が、こういう歴史の話には心を動かされるのだと、母親として嬉しく感じました。花菜が手を伸ばし、りゅうはスマホを下ろしてただ見つめています。赤い光が青空に溶けていくその瞬間、胸の奥がじんわり熱くなり、私は心の中でそっとつぶやきました。

こうやって人は昔から、願いや想いを、見えない誰かに、あるいは未来に向けて託してきたのだろうなと感慨深く感じました。親子三人で並んで空を見上げるその時間は、ただの体験ではなく、私たちがこの土地の文化と歴史の一片に触れ、心で共鳴するひとときでした。

食堂での締めくくり日常に息づく文化

十分の路地裏にある昔ながらの食堂に入り、木のテーブルに座ると、壁には家族写真や古いポスターが飾られていました。おばあちゃんが運んでくれた魯肉飯は、八角の香りがほんのり漂い、花菜は「懐かしい味がする」とほほえみました。

りゅうは「台北のレストランとは全然違う、家庭の味だね」と感動してました。食事の後、おばあちゃんが「この町も昔は鉱山で賑わっていたのよ」と昔話を聞かせてくれて、旅の最後に温かい思い出が増えました。

花菜
花菜

「なんか、八角の匂いや味もするんだけど、何だか懐かしいホッとする味だね。」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「こんなにほっとする味、今まで台北では味わわなかったなぁ。友達や先輩とワイワイと賑やかに、飲みながらだとスパイシーなものが多かったからなぁ。」

私は2人のその言葉に、胸がじんとしました。九份や十分の町は、かつて金鉱で栄え、多くの人が夢を追って集まった場所です。それだけに、夢が潰えた後の時代も、地元の人々は日々の暮らしを守り続け、時間の中に積み重ねてきたのです。食堂の味は、そんな人々の手仕事と心がこもったものでした。

一口一口を味わいながら、私は「文化とは派手なものではなく、こうして日常に息づくものなのだ」と改めて感じました。りゅうと、花菜がそれを感じ取ってくれたのがとても嬉しく連れてきてよかったと改めて思いました。旅の締めくくりにふさわしい、心にしみるひとときになりました。

まとめ 坂道と光と願いがつむぐ、親子の台湾物語

この旅を通じて、私たち家族はただ観光地を巡るだけでなく、九份や十分の町で暮らす人々の思いに触れ、台湾文化の奥深さを肌で感じることができました。坂道の先に広がる景色や、天燈に込めた願い、食堂での温かな出会い──どれも私たちだけの大切な思い出です。

「また家族で新しい物語を作りに来たいね」と花菜が言い、りゅうも静かに頷いていました。旅の終わりに、家族の絆がさらに深まったことを実感しています。

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