台北で迎えた2日目の朝。まだ薄暗い通りを、娘の花菜と手をつないで歩きました。前夜は興奮してなかなか眠れなかったのに、不思議と目覚めはすっきりと目覚めました。古亭駅近くの路地を曲がると、湯気とともに漂う大豆の香りが、私たちを一気に“台湾の朝”へと連れていってくれました。
花菜が「なんだかお祭りみたいだね」と小声でつぶやいたのが、今も耳に残っています。道の角を曲がると、金属製のせいろから立ちのぼる蒸気が勢いよく立ち上っています。その向こうで、エプロン姿のおばあちゃんが笑顔で迎えてくれました。
「台湾の朝ごはんって、生活の中に“やさしさ”があるんだね」花菜がぽつりとつぶやいたその瞬間から、私たちのローカル朝食の時間がはじまりました。
台北の朝は早い|6時台からにぎわうローカルの朝
朝6時過ぎ、すでにお店の前には地元の人たちですでに列をなしていました。新聞片手に談笑しながら朝食を待つおじさんたちの姿に、花菜も「日本の朝とは全然違うね」と驚いていました。私たちが選んだのは、地元で評判の「永和豆漿大王」です。
プラスチックのテーブルやイスが並ぶだけのシンプルな店内ですが、その素朴さが逆に心地よく、初めてなのにどこか懐かしい気持ちになりました。
カウンターに並ぶと、壁一面に漢字だけのメニューが貼られていました。少し戸惑っていると、隣にいたおばあちゃんが「蛋餅、おすすめよ」と日本語混じりで声をかけてくれました。その笑顔に背中を押されて、勇気を出して「蛋餅と熱い豆乳をください」と注文です。
花菜も「伝わったね!」と小さくガッツポーズし2人で笑ってしまいました。旅先ならではの温かい交流に、朝から心がほぐれた瞬間でした。
とろける豆乳に癒される|温かさがしみる一杯の物語
運ばれてきた熱々の豆乳を、花菜が両手でカップごと包み、ふうふうと息を吹きかけながら一口飲んでみました。「お母さん、これ、お布団みたいにあったかいね」と無邪気に笑っていました。ほんのり甘く、やさしい大豆の香り。冷えた指先までじんわり温まる感覚に、思わず「また明日も飲みたいね」と親子で顔を見合わせました。
豆乳は熱々、ぬるめ、冷たいものと選べるので、その日の気分や気温で変えてみるのも楽しい発見でした。私たちは「半糖」で頼むのが定番です。毎朝違うお店で飲み比べをして、「ここの豆乳は香ばしいね」と感想を言い合うのが、旅の新しい楽しみになりました。
蛋餅のカリッふわっが忘れられない|体も心も目覚める瞬間
焼きたての蛋餅を手に取ると、表面はパリッと音を立て、中はふんわり。花菜は「この焦げ目がサクサクしてる!」と目を輝かせていました。ひと口かじると、卵とネギの香りがふわっと広がり、チーズを追加したらさらにコクが増して、思わず「これは毎日でも食べたいね」と蛋餅を満喫しました。
焼きたてを手にした瞬間のあの熱と香り──それだけで朝の街に溶け込んだ気がしました。

「お母さん、この焦げ目がサクサクしてる!でも中はふわっふわ!」
花菜は目を丸くして、夢中で頬張りながらうれしそうに笑っていました。私も思わず笑顔になって、ふたりで顔を見合わせながら同時にもうひと口頬張りました。台湾の蛋餅は、日本のパンやおにぎりとはまるで違う、まるで五感で味わう食べ物でした。香り、音、そして食感までもが、旅の朝を彩ってくれました。
おかゆはやさしさの象徴|台湾の“静かな朝”を味わう
豆乳や蛋餅を楽しんだあと、花菜が「まだ食べられるかも」と笑ったので、最後に鹹粥を頼んでみました。最後に頼んだのは、具だくさんの塩味おかゆ。湯気の向こうに、豚肉や干しエビ、カリカリの揚げパンが浮かんでいます。レンゲですくって一口、「これ、体に染みるね」と花菜がしみじみ呟いたのを横で見ていました。
花菜につられて私も、台湾のおばあちゃんが風邪の時に作ってくれたお粥を思い出し、懐かしさで胸がいっぱいになりました。“食べもの”って、ただの栄養じゃなくて、“やさしさ”なんだな、と胸があたたかくなります。旅の朝、ひとさじのお粥が教えてくれたのは、台湾という土地の深い懐のようなものでした。

「お母さん、これ……体に沁みる味だね」
初めてでも安心!ローカル朝食の注文方法とポイント
私たちが行ってみて感じたポイントをまとめてみました。
Lulucoの一言:ローカル朝ごはん、これで安心!
注文の時は、メニュー番号を指さすだけで通じることが多く、言葉に自信がなくても大丈夫でした。別のお店では、紙に欲しいものを書いて渡すスタイルで、花菜と一緒に漢字をなぞりながら記入。現地の人のやさしさと、ちょっとした冒険気分が味わえました。
メニュー表が漢字だけでも、近くのお客さんの注文を見て真似すれば大丈夫です。
食後はセルフでゴミを片付けるのが台湾スタイル。最初は戸惑ったけど、“暮らしの一部”に参加できたようで、なんだかうれしかったです。
豆乳(豆漿)の種類と特徴
● 熱豆漿(リャオ・ドゥ・ジャン)
アツアツの甘い豆乳。定番の朝ごはんドリンク。
● 溫豆漿(ウェン・ドゥ・ジャン)
ぬるめの豆乳。子どもやシニアにも飲みやすい温度です。
● 冰豆漿(ビン・ドゥ・ジャン)
冷たい豆乳。暑い季節にぴったりの爽やかさ。
甘さは「半糖」や「不要糖」と伝えれば調整できました。私たちは「半糖」で注文したら、やさしい甘さでちょうどよかったです。
お店によって豆乳の濃さや香りが全然違うので、飲み比べも旅の楽しみになりました。花菜と「この店はちょっと香ばしいね」と感想を言い合うのが毎朝の恒例になりました。
さらに、旅メモに使える中国語フレーズも紹介できますまた注文する際に便利なアプリもあります。参考にしてみてくださいね。
暮らしの一部を旅するということ|“朝ごはん”が教えてくれる台湾のやさしさ
台湾の朝ごはんは、単なる食事以上の体験でした。湯気の立つカウンターで交わす小さな会話、焼きたての蛋餅を頬張る花菜の笑顔、そして現地の人のさりげない親切。旅の朝食が、私たち親子の心に“台湾のやさしさ”をそっと刻んでくれました。
花菜と一緒に早起きして出かけたあの朝、何気なく入った小さな食堂で、当たり前のように豆漿を差し出してくれた店員さんの手際や、常連さんたちの笑顔が、今でも心に残っています。
台湾では単身者用の賃貸などではキッチンがない家が多いと聞いていました。外食文化が発展していることや、建築上のことなど様々な理由があるようです。でも、昔、友人宅に呼ばれた時には、台湾の家庭には立派なキッチンがあり、食卓はいつも人と人をつなぐ場所になっている家庭もありました。
朝市の活気、大皿で並ぶ家庭料理、そのひとつひとつに、丁寧な暮らしぶりが息づいています。観光地では出会えない、台湾の“生活の温度”に触れたこの旅は、私たちの心にそっとあたたかい記憶を灯してくれました。
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