「最近、仕事の合間に深呼吸することすら忘れていたな…」とぼんやり考えていたある朝、ふとSNSで見かけた烏来の渓谷の写真に心を奪われました。ちょうどその時、友人のまりえさんから「週末、どこかでリフレッシュしない?」と連絡があったのです。烏来の渓谷は台北駅から40分で行ける場所とは思えない、緑と水の魅惑の世界です。スマホの通知も気にせず、心のデトックスをしに、初めての烏来へ向かうことに決めました。
バスで手軽に大自然へ|新店駅から849番バスで烏来へ
朝8時過ぎ、新店駅に着いた瞬間、改札を出て右手に進んだものの、バスターミナルの案内が見当たらず、しばらくウロウロしてしまいました。地元の学生さんに「烏来行きのバス停はどこですか?」と聞いたら、親切に案内してくれました。実際、初めてだと駅の裏手にあるバスターミナルは本当にわかりづらい!「もし一人だったら絶対迷ってたね」とまりえさんと大笑いです。

「たしか…バス乗り場はこの裏手にあるはずなんだけど…」
改札から徒歩2分ほど、ビルの合間にひっそりとあるターミナルにたどり着くと、目の前に赤と白のバスが停まっていました。

「849番…これだ!」
喜び勇んで近づくと、ちょうど扉が開きました。すると運転手さんがちらりとこちらを見て顔を乗り出してくれました。少し緊張しながら日本語混じりの中国語で尋ねると、彼は軽くうなずきながら手で「OK」のジェスチャーで返してくれました。

「烏来行き、これで合ってますか?」

「OK!OK!」

「ふぅ、よかった〜。これ逃したら1時間待ちって書いてあったもんね」
まりえさんの笑いに、私も肩の力が抜けました。バスの座席に腰を下ろすと、窓の外には朝の台北の景色一色です。通勤中の学生やサラリーマンが静かに乗り込み、車内はまだ眠気を引きずったような静けさに包まれていました。
でも私たちだけは心が踊っていました。リュックの中には、温泉用のタオルと着替え、それに、地元グルメを食べる気満々で空っぽの胃袋があります。「ねえ、なんだか修学旅行の朝みたいじゃない?」
そう言ってまりえさんが笑った時、バスはゆっくりと動き出しました。
🚌 アクセス詳細(2025年現在)
📍 出発地点:MRT「新店(シンディエン)駅」
台北MRTの終点「新店駅」(松山新店線)で下車後、出口を出てすぐ右手にある「新店バスターミナル」へ。改札から徒歩1〜2分。
駅構内には案内表示が少ないため、「バスターミナル」または「公車站(ゴンチューチャン)」の表示を目印に。
🚌 利用バス:台北客運 849番(烏来行き)
台北市内と烏来を結ぶ主要路線。1時間に1〜2本運行。
週末・祝日は混雑するため、事前に時刻を確認して早めの乗車がおすすめです。
🕒 所要時間:約30〜40分
朝夕のラッシュ時は渋滞の可能性あり。平日の午前中が比較的スムーズです。
💰 運賃:約30NTD(片道)
悠遊カード(EasyCard)利用でキャッシュレスOK。現金も可ですが、お釣りは出ないので小銭を準備しましょう。
🚏 降車地点:終点「烏来(Wulai)」
終点まで乗ればOK。電光掲示板とアナウンスあり。
迷わず安心して利用できます。
🔍 注意点(バリアフリー情報)
・849番バスは一部車椅子対応車両あり(事前確認推奨)
・烏来温泉街は坂道・階段が多め。
車椅子・ベビーカー利用の方は、フラットな道を選んで移動するのがおすすめです。
渓谷沿いの個室温泉で深呼吸|静けさに包まれるひととき
849番バスが終点「烏来」に到着すると、バスの扉が開いた瞬間、ふわっと温かな空気が肌を包みました。湿気を含んだ渓谷の風が頬をかすめ、どこか土と草の匂いが混じったような、やさしい香りが鼻先をくすぐりました。

「わぁ…空気が、やわらかい」
まりえさんが深く息を吸い込んで、ゆっくり吐き出した。私もそれに倣って、胸いっぱいに息を吸いこみました。都会の乾いた空気とはまるで違い、肌にも心にも染み渡りました。
烏来のバス停を降りて、石畳の坂道を約5分歩いたところにある、川沿いに並ぶ木造の温泉宿の中から、私たちは「春秋湯屋」という個室温泉を選びました。事前にSNSで見つけた“渓谷ビュー”の部屋を予約していたので、ワクワク感で足早に行きました。
実際に引き戸を開けた瞬間、檜の香りと窓いっぱいの緑に思わず声を上げてしまいました。湯船に浸かった瞬間、窓の外から聞こえてきたのは、川の流れる音と、どこからか聞こえる鳥のさえずりです。普段、台北市内では絶対に聞こえない自然の音に、思わず目を閉じて深呼吸しました。
湯上がりに飲んだ麦茶の冷たさも、都会のカフェで飲むものとは全然違い、体の芯まで染み渡るようでした。湯上がりには、用意されていた冷たい麦茶をすすりながら、窓辺でぼーっと川を眺める…“何もしない贅沢”を、久しぶりに味わいました。

「都会では絶対に味わえない静けさだね。仕事のこととか、SNSとか…完全に頭から抜けるね」

「ほんとに。ここにいると、自分が“ちゃんと呼吸してたんだ”って思い出すな」
部屋の角に備えられた竹籠には、湯上がり用の麦茶が冷やされていました。手に取ってひと口飲むと、ほんのりとした甘さが喉を通っていきます。その味にさえ、優しさを感じてしまうのは、きっと心がゆるんだからだと感じるほどでした。
♨️ 温泉情報ガイド|烏来で体験する、渓谷の個室湯
【利用料金】
個室温泉の相場は 1時間あたり500〜800NTD。
タオルや麦茶などが付いており、手ぶらでも利用しやすいのが魅力です。
【設備の特徴】
・源泉かけ流しの天然温泉
・大きな窓から渓谷を一望できる絶景個室
・脱衣スペース&リラックスチェア付き
・ヒノキ風呂や岩風呂のあるお部屋も人気
【利用のタイミング】
平日でも混み合うことがあるため、事前予約がおすすめ。
SNSや公式サイトで簡単に予約できます。
【おすすめ施設(2025年最新)】
🏡 春秋烏来湯屋(Chun Chiu Hot Spring)
┗ 渓谷ビューの絶景個室が人気。温もりのある木造内装。
🏡 雲仙温泉会館(Unzen Hot Spring)
┗ 清潔感のあるお部屋とリーズナブルな料金。ローカル客にも評判。
🗺️ Googleマップリンク:
おすすめ温泉エリア(烏来街)
📌 使い方アドバイス:
個室温泉は特に女性旅やシニアとの旅行にぴったり。
午前中の利用なら、やわらかな日差しと緑の渓谷が調和し、写真映えも抜群です。
日帰りでもリトリート気分が味わえる、心と体にやさしい時間をどうぞ。
烏来名物ランチ|竹筒飯と山野草で体の中から癒される
温泉で芯から温まった後は、温泉街の老街をぶらぶら。ふと、竹の香りがふわっと漂ってきて、気がつけば「老街竹筒飯」という小さな食堂の前に立っていました。川沿いの縁側席に座ると、目の前には緑の渓谷がありました。
竹筒飯を割ると、ふわっと広がる竹の香りにまず驚き。もち米の中に混ざった山菜と干し肉は、噛むほどに旨味がじんわり広がって、思わず「これ、家で再現できないかな?」と考えてしまうほどです。添えられた山野草の天ぷらは、サクサクの衣とほろ苦い香りがクセになる美味しさで、まりえさんと「これは絶対また食べたいね!」と盛り上がりました。
その香りに驚きながら、店主のおばあちゃんが揚げてくれた山野草の天ぷらもいただきました。“土地の恵みをいただく”ってこういうことか、としみじみ実感し、五感で味わうランチタイムでした。

「これ、見た目以上にボリュームがあるね!」

「これは艾草(ヨモギ)だよ」
「うわ…これ、いい匂い」まりえさんが頬をほころばせました。もち米の間には、小さく刻まれた山菜と干し肉が混ざっていて、噛むほどに味わい深いです。添えられた天ぷらは、サクッという軽やかな音とともに口に入れた瞬間、草の苦味ではなく、ハーブのような爽やかな香りが広がりました。

「これ、草の苦さとか全然ないね。香りがすごくいい…」

「山で採れる“艾草(ヨモギ)”と“香椿(シャンチュン)”っていう葉っぱ。体を温めるのよ」
天ぷらに添えられていた自家製のハーブ塩は、ほのかな塩味の中にレモングラスのような清涼感があって、後味まで優しかったです。

「身体の細胞が喜ぶ食事ってこういうことよね!」
🍽️ 食事情報|心と体にやさしい、烏来の郷土料理
【代表的な料理】
・竹筒飯(ジュートンファン):
地元産のもち米を竹筒に詰めて蒸しあげた素朴な名物。竹の香りと山菜・干し肉の旨みが特徴です。
・山野草の天ぷら:
地元で採れるヨモギや香椿などを使用。ハーブのような香りとサクサクの衣が魅力。ハーブ塩付きで風味も◎。
【おすすめのお店】
🏠 老街竹筒飯:川沿いの席で、自然を眺めながらランチが楽しめる人気店。
🏠 阿妹の店:天ぷらの種類が豊富で、ベジタリアンメニューも対応。接客も丁寧で安心感あり。
【価格帯】
1人あたり150〜250NTD前後。セットメニューでは竹筒飯+天ぷら+スープ付きが基本です。
【食材・アレルギー対応】
・季節によって料理内容が変わる場合があります。
・アレルギーや苦手な食材がある場合は、注文時にスタッフへ相談を(英語・翻訳アプリOK)。
・ベジタリアン対応メニューがある店舗もあり。
🗺️ Googleマップリンク:
烏来老街の食堂マップ
📌 使い方アドバイス:
・人気店は昼過ぎに売り切れることもあるため、午前中の来店がおすすめです。
・温泉の前に食事を済ませておくと、湯上がり後にカフェや散策をゆっくり楽しめます。
・天ぷらは注文後に揚げるスタイルのため、時間に少し余裕をもって訪れるのがベターです。
文化にふれる時間|織物とビーズに込められた祈り
温泉街から少し奥に進んだところ、小さな木造の建物の軒先に、カラフルな織物とビーズアクセサリーが風に揺れていました。

「ちょっと、見てみようか」
食後は、温泉街の奥にあるタイヤル族の工房へ行きました。色鮮やかな織物を手に取ると、店主のおばあさんが「この模様は家族の健康を願っているの」と教えてくれました。実際に織り機を触らせてもらいながら「昔は家族ごとに模様が違ったんですよ」と聞いて、布一枚に込められた想いの深さに感動しました。自分で作ったブレスレットは、旅のお守りとして今も大切にしています。
実際に織り機を触らせてもらい、簡単なブレスレット作りを体験をすることになり、初体験でしたが世界に一つだけの“旅のお守り”ができました。旅先でこうした手仕事の温かさに触れられるのは、烏来ならではの魅力です。どの布も、色と柄の組み合わせが独特で、見ているだけで楽しくなります。

「同じ模様でも、織る人によって微妙に違うんですよ」
その瞬間、ただの「おしゃれな民芸品」だと思っていた布が、誰かの願いや祈りが織り込まれた、物語を持つものに変わった気がしました。「これ、…お守りみたいになるね」まりえさんがそう言ったとき、私はその布を手に取って、そっと頬にあてた。織り目の不揃いさが、なんだか温かくて、人の手のぬくもりが残っているような感覚になりました。
ビーズアクセサリーの棚では、小さなピアスやストラップが並び、それぞれに「友情」「自然との調和」「祖母の知恵」などの意味が書かれたタグがついていましたた。

「こっちの模様は?」

「これは“山の守り神”を表しているの。山と共に生きる民族だから、自然は神様そのものなのよ」
店主の言葉には誇りと静かな愛情がにじんでいました。私たちはおそろいで、“旅の安全”を祈るストールを一枚ずつ購入しました。

「今後の旅の必需品になるわね!」
🧶 タイヤル族の工芸にふれる|祈りが織り込まれた手仕事の魅力
【文化背景】
タイヤル族(Atayal)は台湾の山岳地帯に暮らす原住民族のひとつ。
特に烏来周辺には多くのタイヤル族が暮らし、織物は「家族」「自然」「祈り」などを表現する文化的な象徴とされています。
【織物の特徴】
色・柄・線にそれぞれ意味があり、
例:赤=勇気/黒=大地/ひし形=家族の絆 など。
デザインの背景を知ることで、1枚の布が「物語のある宝物」に変わります。
【体験できること(予約制)】
・手織りでブレスレットやストール作り(30〜60分)
・ビーズで祈りのアクセサリーを制作
・模様に込められた意味を学びながら、自分だけのデザインに挑戦できます。
【販売されている主な商品】
・ストール(600〜1200NTD)
・手織りのポーチ・巾着(200〜500NTD)
・意味付きビーズアクセサリー(150NTD〜)
すべてが一点もの。贈り物にもおすすめです。
🗺️ Googleマップリンク:
烏来民芸品通り
📌 使い方アドバイス:
・午前中の訪問がおすすめ(人気商品は早めに売り切れます)
・「この模様は何を表していますか?」と聞いてみましょう。
店主が物語や歴史を教えてくれることも。
・製作体験はSNSや電話での予約が確実です。
締めくくりは足湯でゆったり|川の音に心を預ける
帰り際、川沿いの小道を歩いていると、地元の方に「この先に無料の足湯があるよ」と教えてもらったので、せっかくだからと行ってみました。川沿いの足湯に、そっと足を入れた瞬間、じわじわと温かさが足先から全身に広がっていくのを感じました。
目の前の翡翠色の川を眺めながら、まりえさんと「足だけでもこんなに癒されるんだね」と顔を見合わせて笑顔に。地元の子どもたちが水遊びする声と、川のせせらぎが心地よく混ざり合い、「このまま時間が止まればいいのに」と本気で思いました。

「足だけでも、こんなに癒されるんだね」

「何とも言えない癒しね、さっき心までデトックスできたと思っていたけど、何かが身体に埋まるみたいに充実してきたね。」

「……あ〜、これ、最高」
足湯につかりながら見上げた空は、午前中よりもやわらかく、風が頬を撫でていきました。横に並んで腰を下ろした私たちは、それぞれ静かに川の音に耳を澄ませていました。ふだんは気にも留めないような自然の音、葉が揺れる音、遠くから聞こえる話し声…、それは穏やかなサウンドのように聴こえました。

「帰りたくないって、こういう時に言うんだね」

「今回、心も身体もデトックスには最高ね!何だかやる気がみなぎってきた!」
🦶 足湯情報(無料スポット)|烏来で自然と一体になるひととき
📍 場所:
烏来老街から徒歩約5分の川沿いにあります。
温泉街の端にある静かなエリアで、南勢渓の清流を間近に感じながら足湯が楽しめます。
※道中に坂道・石畳あり。歩きやすい靴がおすすめです。
🕒 利用時間:
24時間利用可能(夜間照明なし)。
おすすめ時間帯:朝9時〜11時/15時〜17時前後
※夜間は暗くなるため、安全のため避けたほうがよいです。
💰 利用料:
無料で予約不要。混雑時は譲り合って利用しましょう。
🧼 設備:
・石造りのシンプルな湯舟(2〜3人向け)
・木製ベンチ付き(屋根なし)
・ぬるめの源泉が常時注がれ、衛生的に保たれています
・シャワー設備・更衣室なし(足湯専用)
🧳 持ち物アドバイス:
・タオル(足拭き用)
・替えの靴下 or スリッパ
・レジャーシートやビニール(荷物・ベンチ用)
・飲み物(水筒やお茶など)
・スマホやカメラ(写真映えスポット)
📌 使い方アドバイス:
・温泉やランチの合間の立ち寄りスポットに最適。
・旅の振り返りや空を見上げるリラックスタイムに。
・地元の方との会話が生まれることもある、交流の場。
・ベンチが濡れていることもあるので、タオル等を敷くと快適です。
💡 補足:
雨の日や前日が雨だった場合、川沿いは滑りやすくなります。
岩場や濡れたタイルには十分ご注意ください。
まとめ|日帰りでも、心がほどける“癒しの谷”
台北からたった40分で、こんなに心が軽くなる場所があるなんて。温泉、地元のごはん、手仕事の温もり、そして川沿いの静かな時間。烏来は、“自分に戻る”ための小さなリトリートでした。「また疲れたら、ここに帰ってきたいね」とまりえさんと約束し、“旅は、特別なことじゃなくても、心が動く瞬間の積み重ね”だと気づかせてくれた一日でした
日帰りでも、時間は短くても、“癒される”って、そういう小さなことの積み重ねなんだと気づかされました。ふだんは忘れていた「呼吸」や「五感」、そして「誰かと過ごす、何気ない時間」の尊さに、
この谷がそっと手を添えて、思い出させてくれたように感じます。
またきっと、疲れたときは、ふらりとここに戻ってきたくなる。
烏来は、日常と非日常のちょうど境目にある、“心がほどける癒しの場所”でした。
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