花と風に導かれて|親子で体感する陽明山“癒し”ハイキング旅

自然とアウトドアアクティビティ

夕飯の後、湯気の立つお茶をすすりながらぼんやりしていたとき、花菜がぽつりとつぶやきました。「ママ、今度の台湾旅、山にも行ってみない?」その声に、隣でスマホを見ていたりゅうがすかさず反応しました。「陽明山、いいよ。留学中に行ったけど、自然がきれいで空気がぜんぜん違う」2人とも、行く気マンマンな笑顔です。

りゅうが見せてくれた写真には、霧に包まれた桜と草原の道、壮大な景色が広がっています。
花菜は「うわ、ここ行きたい!」と目を輝かせました。私は少し迷いながらも、2人の顔を見て決めました。「……じゃあ、行ってみようか。陽明山」

こうして私たち親子3人は、都会の喧騒を抜けて、自然と静けさに出会う旅へと歩き出しました。

山の静けさに包まれて、陽明山で深呼吸する親子旅の一日

バスが急な坂道を登るたび、窓の外には台北の街並みがどんどん遠ざかっていきました。途中、地元の人が野菜を抱えて乗り込んできたり、車窓からは朝市の賑わいが見えたりと、観光地とは違う日常の風景が印象的でした。

バス到着~現地の空気感

バスターミナルに着いてドアが開いた瞬間、花菜が「わ、空気が甘い!」と声を上げ、私も思わず深呼吸。普段の生活では感じられない、澄んだ空気と土の匂いに包まれる感覚は、まさに旅の始まりを実感させてくれました。

花菜
花菜

「空気、ぜんぜん違うね」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「こういう匂い、久しぶりだな」

Luluco
Luluco

「すごく澄んでいるわね。鳥の声とか、葉っぱの揺れる音が清々しい。」

登山口での迷い・現地の人との交流

登山口を探して歩き出したものの、スマホの地図がうまく動かず、気づけば逆方向に進んでいました。

花菜
花菜

「え、道が分かれてる…」

Luluco
Luluco

「これ、地図の向き逆に見てない?」

ふたりで顔を見合わせたそのとき、近くにあった売店に目が留まりました。少し不安だったけれど、「この道で合っていますか?」と勇気を出して尋ねてみると、おばさんが笑顔で答えてくれました。

お店の店員
お店の店員

「バスから来たなら左よ。今日は少し霧が出るから気をつけてね、「你們慢慢走(ゆっくりおいで)」」

花菜
花菜

「謝謝」

花菜が「海外でも人の優しさって伝わるんだね」と小さく呟いたのが、忘れられない旅の思い出です。正しい道に戻って歩き始めると、すぐに風景が変わっていきました。石畳の道は少し滑りやすく、私たちは互いに声をかけ合いながら慎重に歩を進めました。

やがて、霧なのか、硫黄の影響なの霧が濃くなり、視界が白く包まれてしまいました──。

花菜
花菜

「なんか幻想的…」

Luluco
Luluco

「うわ、でもちょっと怖くない?」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「大丈夫。前に来た時もこんな感じだったよ」

りゅうのその余裕な声に私と花菜は安堵しながら、マイペースぶりに笑ってしまいました。

霧の花畑での感動

濃い霧の中を歩いていると、ふと風が吹いて霧が晴れ、一面にピンク色の野草が咲く花畑が現れました。花菜とりゅうが「すごい!」と同時に声を上げ、夢中で写真を撮り始めました。私はその姿を見て、「自然のサプライズってこういうことなんだ」と心から感動しました。

花菜
花菜

「うわぁ……」

3人とも、言葉を失って立ち尽くしました。まるで誰かがそっとこの瞬間だけ、特別な景色を見せてくれたかのような──そんな気がしました。

 

遠回りの先にあったごちそうと風景──陽明山がくれた小さな贈り物

少し進んだ先の東屋で、持ってきたお弁当を広げることにしました。朝市で買ってきた俵むすびと卵焼き、青菜の漬物。紙コップに注いだ温かいウーロン茶が、手のひらから体に沁み渡ります。山の空気の中で食べるごはんの味は、レストランでも再現できない、かけがえのない“旅のごちそうでした。

ルートミスと新しい発見

帰り道、地図を見間違えて予定外の脇道に入ってしまいました。最初は「また間違えた…」と焦りましたが、その道沿いには苔むした石段や小さな渓流、背丈ほどもあるシダが生い茂っていて、思わず立ち止まって写真を撮るほどの美しさです。

花菜が「失敗したからこそ、こんな景色に会えたんだね」と笑い、家族で“迷子も旅の醍醐味”だと実感しました。そう、旅の中での“失敗”って、いつも何かしらの贈り物をくれるのです。今日の陽明山も、まさにそんな旅になりました。

湯けむりと風に誘われて|地熱谷で感じた地球の鼓動

陽明山ビジターセンターに着いた私たちは、館内でホッとひと息つきました。天井の高いロビーには、木の香りがほんのりと漂い、足元からじんわり温かさを感じるような、穏やかな空気が流れています。

日本企業のバリキャリ
受付の女性

「擎天崗(チンティエンガン)へのルートが人気ですよ。初心者向けで景色もよく、風が通って気持ちがいいですよ。」

受付の女性が丁寧に地図を広げてくれながら、ゆるやかな草原ルートを指さしてくれました。そこで地図の端にあった“地熱谷”の文字に、りゅうが目をとめました。

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「擎天崗(チンティエンガン)も良さそうだけど、こっちの“地熱谷”って場所、気にならない?」

花菜
花菜

「温泉の蒸気がモクモク出てる場所でしょ?行ってみたい!」

私たちは迷わず、そのルートを選びました。遊歩道を進むと、しばらくはのんびりした散策路が続きました。けれども、谷に近づくにつれて、空気がふっと変わりました。木々の隙間から、もわもわと立ち上る白い湯けむり、そして、ほんのり漂ってくる硫黄の匂い──懐かしいような、どこか異国のような感じがしました。

花菜
花菜

「見て!あそこ、水面がボコボコ言ってる!」

花菜が指差す先には、温泉が湧き出て小さな噴気孔がいくつも出ていて、地球の息づかいのような音を立てていました。そのとき、近くで写生をしていたおじいさんが声をかけてきました。

高齢な男性
高齢な男性

「今日は蒸気が多くて、描きがいがあるよ。風がないと輪郭がきれいに出るからね、昔からこの辺りで絵を描いてるんですよ。あの坂の下に、小さな足湯もあるから寄っていくといい」」

手元のスケッチブックには、墨で描かれた温泉の風景は、山の息吹が伝わってくる、すばらしさ、まるでその絵から硫黄の匂いがしてくる臨場感は見事でした。

湯けむりの静寂に包まれて──森の足湯で心ほどける時間

言われたとおりに下っていくと、森の中にぽつんと現れた石造りの足湯がありました。温泉の熱がそのまま引かれていて、湯気が立つ小さな湯船に足を浸すと──じんわりと体の芯まで温かくなってきました。

花菜
花菜

「ねぇ、なんか…生き返るってこういう感じ?」

花菜が目を閉じてぽつりとつぶやく。私は笑いながら、そっと頷きました。見上げれば、竹林の向こうに太陽がうっすらと透けています。そこには時間も言葉も必要ないような、静かで豊かなひとときが流れていました。

私たちが選んだルートは、人気ルートとは違ったけれど、そこには私たちだけの発見と、地元の絵描きからもらったあたたかい“旅の記憶”がしっかりと刻まれました。

擎天崗の大草原|風と牛と、静けさの中で

木製の階段を登りきった瞬間、視界がふわっと開けました。眼下に広がっていたのは、まるで絵本の1ページをめくったような、優しくて不思議な世界です。澄んだ空気に包まれた草原の向こうには、ゆるやかな丘が幾重にも重なり、どこまでも続いていました。

空は雲ひとつない青さで、風が静かに肌をなでていきます。息を飲んで立ち尽くす私たちの背中を、まるで「ようこそ」とでも言うように、そよ風が押してくれました。

風に背中を押されて──ジブリのような草原で見つけた自由

私たちは擎天崗(チンティエンガン)の草原へつきました。そこはどこまでも続くなだらかな緑の丘に、風がさーっと吹き渡る。立ち止まって深呼吸すると、身体の隅々まで風が行き渡るような心地よさがありました。

花菜
花菜

「ここ……ジブリの世界みたい」

花菜がぽつりと呟く。目の前に広がる非日常の景色に、素直な感動がにじみ出ていました。

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「ちょっと待って、空から撮りたい」

りゅうはバッグから小さなドローンを取り出し、操作を始めました。空の青さと草の緑、そして水牛たちののんびりとした姿──まさに絶好の空撮日和です。草原の中では、水牛がゆったりと草を食べていました。遠くからそっと見守るように眺めながら、私たちは言葉を失って立ち尽くしました。

 

Luluco
Luluco

「なんかさ、この風…背中を押してくれるみたい」

花菜
花菜

「うん、わたし今、すごく自由って感じ」

それぞれに大自然の風と静けさに包まれながら、時間がゆっくりと流れていきました。
花菜は「こんなに心がほどけるなんて」とつぶやき、りゅうは草原を見つめながら静かにシャッターを切り続けていました。私はただ、この瞬間がずっと続いてほしいと願うように、そよ風の音に耳を傾けていました。

陽明山、実際に行ってみて感じた注意点・行き方のポイント

「陽明山、やっぱり来てよかったね」帰りのバスを待ちながら、花菜がぼそっとつぶやきました。

Luluco
Luluco

「うん。風も気持ちよかったし、草原の広さがほんとに圧巻だった」

花菜
花菜

「ただ、あの急な坂を登るルートはちょっとキツかったね…靴、もうちょっとクッション性のあるのにすればよかった」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「あと、売店が少なかったから、次はもっとちゃんと食料持っていこう。お茶屋があったのはラッキーだったけど、ルートによっては全く何もなかったし」

Luluco
Luluco

「あと、帰りのバス停、場所がわかりにくかったから、次回はちゃんと地図確認しておこう」

私たちは朝市で買ったおにぎりとウーロン茶を持参しましたが、山道では売店がほとんど見つからず、軽食や飲み物は多めに持っていくのが正解でした。靴はスニーカーでしたが、クッション性の高いトレッキングシューズならもっと快適だったと思います。突然の霧や雨もあったので、レインウェアや帽子は必須です。

虫除けスプレーを忘れて少し困ったので、次回は必ず持参しようと思いました。私たちが感じたシンプルな行き方、必須で持っていた方が良いもの、次回は気をつけようと思ったことをまとめてみました。

◎陽明山ハイキング情報まとめ(表)

アクセス MRT「士林駅」下車 → 230番バスで約50〜60分 →「陽明山バスターミナル」下車
入園料 無料(園内の一部施設・温泉などは有料の可能性あり、約30〜80元)
おすすめ持参品 水筒、軽食(おにぎり・菓子類)、帽子、レインウェア、虫除け、歩きやすい靴、日焼け止め
売店・飲食 場所によっては茶屋・売店あり(草餅・温泉玉子・地元茶など)/ただしルートによっては自販機すらないので要準備
お土産 バスターミナル周辺にあり:温泉グッズ、薬草、ハーブティー、手作り石鹸など
注意点 天候の急変あり(霧や雨)/トイレの場所は限られている/擎天崗など標高の高いエリアは風が強く冷えやすいので服装に注意
所要時間目安 散策だけなら2〜3時間/擎天崗や冷水坑までの往復含むと半日〜1日プラン

締めのひととき|草山小館で家族の会話

下山後、陽が傾き始めた山道を歩いて、私たちはバスターミナル近くの「草山小館」へ向かいました。どこか懐かしさを感じる木の看板と、ほのかに湯気を立てる厨房の香りがただよっています。店先に並んだ草花が風に揺れていて、それだけで心がふっとほぐれていくのがわかりました。

テラス席に通され、柔らかな木の椅子に腰を下ろすと、今日登ってきた山々の稜線が、夕暮れの光に染まって浮かび上がっていました。私は湯気の立つ金柑茶、花菜はほんのり酸味のあるローゼルティー、りゅうは「山のあとの一杯はこれに限る」と言って、台湾ビールを嬉しそうに注文しました。

運ばれてきたおこわは、見るからにもち米がふっくらとしていて、干し椎茸の香りがふんわり立ち上ります。

花菜
花菜

「……これ、まさに朝のバスでおばあちゃんたちが話してた香菇油飯(しいたけおこわ)だよね」

Luluco
Luluco

「これ、今日の山歩きのごほうびだね」

りゅうちゃん
りゅうちゃん

「いやいや、俺のドローン映像もごほうびに入れてよ」

りゅうが笑いながらスマホを差し出しました。画面には、あの草原の上を風に乗って滑空するように映し出される山の景色が広がっていたのです。

私は手の中の金柑茶に口をつけながら、そっと目を閉じました。陽が落ちてゆく山の輪郭と、家族の笑い声、歩いた道、感じた風、足湯の温かさ、そして今この穏やかなひとときがより一層、充実した時間に感じられました。

旅先の豪華なホテルや高級料理よりも、こうして自然の中で一緒に歩き、語らい、笑いあえる時間こそが、――きっと、人生でいちばんの贅沢なのだと思ったのです。

まとめ|自然と家族と、自分自身に出会う旅

陽明山での一日は、私たち家族にとって“特別な思い出”になりました。普段は忙しくてゆっくり話す時間も少ないけれど、山道を歩きながら他愛もない話をしたり、どこまでも続く草原を花菜と並んで歩いたりしました。静かな足湯に浸かりながら「また来たいね」と語り合ったり──そんな何気ないひとつひとつの瞬間に、ふだんは見過ごしていた温かさや絆が、そっとにじんでいたように思います。

旅の終わり、帰りのバスの窓から陽明山のやわらかな稜線を眺めながら、花菜がぽつりと言いました。「ママ、また陽明山で深呼吸しようね」私はその言葉を、胸の奥深くに静かにしまいました。

自然に癒されながら、大切な人と心を通わせる旅──陽明山は、その本質をそっと教えてくれる場所でした。きっとまた、あの風に会いに行きたくなる。そんな旅が、ここにはあります。

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