「ママ、今日って……あの渓谷、行く日だよね?」台北駅で早朝の特急列車に乗り込むとき、娘の花菜がワクワクした声で話しかけてきました。私たち家族3人は、台湾旅行のハイライトとしてタロコ峡谷を選びました。
””タロコ峡谷””は、私が小さい頃から地図で見て憧れていた場所です。そこへついに家族で訪れる日が来たのです。台北から花蓮駅まで約3時間、窓の外にはだんだんと山が迫り、花蓮駅からはローカルバスでタロコ国家公園へと向かいました。
「家族で行くなら、どんなルートが安全で楽しいか?」「子連れでも歩きやすいトレイルは?」そんな疑問を持ちながら、現地で実際に感じたこと・困ったこと・おすすめポイントを、体験談とともに詳しくお伝えします。
旅の計画中、息子のりゅうが「水の上を歩いてみたい!」とSNSで見つけたのが、砂卡礑(シャカダン)トレイルでした。実際に現地に着いてみると、写真以上のスケール感に圧倒されました。
バスを降りてから入口を探すのに少し迷い、地元のおじさんに中国語で道を尋ねるハプニングもありました。

「看板が小さくて分かりづらいけど、あっちだよ」
道に迷った時も、地元の方から親切に案内してもらい、ようやくスタート地点へ行くことができました。この“現地でしか味わえないちょっとしたトラブル”が、旅の思い出をより濃くしてくれました。
迫力の渓谷美!燕子口(スワローグロット)で圧倒される
燕子口を後にした私たちは、渓谷沿いに再びバスに乗り、次の目的地「砂卡礑(シャカダン)トレイル」へと向かいました。りゅうが地図とにらめっこしながら指差したのは、橋のたもとにある控えめな看板です。案内板は中国語と英語のみで、日本語の表示はありませんでした。
私たちは事前にGoogleマップのオフライン地図をダウンロードしていたので迷わずに済みましたが、現地では電波が弱い場所も多いので、地図の準備は必須です。
また、トレイルの入り口は観光バスの停留所から徒歩3分ほどであります。トイレや売店は入口付近にしかないので、出発前に済ませておくのがおすすめです。

「この辺が入口っぽいよ」

「…でも、なんだか呼ばれてる気がするね」
その言葉のとおり、トレイルの入り口はひっそりとしていながらも、不思議な吸引力がありました。岩のアーチをくぐるようにして歩き出すと、すぐに別世界が広がっていきます。左右をそびえる巨岩、真下を流れるコバルトブルーの清流、足元には、川沿いに敷かれた滑りやすい石道があります。
湿った空気が肌にまとわりつき、風が通るたびに草の香りがふっと鼻をかすめました。

「わあ…水の音が、まるで音楽みたい」
実際に歩いてみて驚いたのは、足元の石が想像以上に滑りやすいことでした。私も一度、苔で足を取られて転びそうになりました。そのとき息子が「ママ、危ない!」ととっさに手を引いてくれて、親子の絆を再確認できました。
リュックの底が水たまりで濡れてしまい、持参していた折りたたみマットが大活躍でした。「滑り止め付きのトレッキングシューズ」や「防水バッグ」は必須アイテムだと痛感しました。

「靴、もっと滑りにくいやつを持ってくれば良かったな。りゅうちゃんのお陰で助かったわ、ありがとうね。」

「でも、ケガしなくて良かったよ。ママ助けたの、イイ思い出かな。頼りになる息子じゃん?www」
たしかに、完璧じゃない旅ほど、あとで強く記憶に残るものです。遊歩道の途中、小さな橋の上で地元の年配の男性とすれ違いました。にこやかに声をかけられたその一言が、改めて実感として胸にしみました。

「小心滑喔(気をつけてね)」
険しい道の先には、驚くほど穏やかな景色が待っていました。水面が鏡のように静まり返り、雲の影すら映り込む透明度の高い渓谷。花菜が静かにカメラを構えながら、「ここ、誰にも教えたくないね」と言った声が風に溶けていきました。
渓谷の水に触れる|砂卡礑(シャカダン)トレイルでの発見
私たちがタロコで最も心を揺さぶられたのは、「砂卡礑(Shakadang)トレイル」でした。岩壁に沿って細く伸びる遊歩道は、渓谷のエメラルドグリーンの流れとほぼ平行に続いていて、見上げればゴツゴツとした赤褐色の岩肌、足元には透きとおった水がキラキラときらめいていました。
時おり、風が谷を吹き抜けると、川面がゆるやかに揺れ、その波紋が空の光を反射してキラキラと跳ね返ってくる──ただ歩いているだけなのに、まるで自然と対話しているような、不思議な静けさに包まれていました。
水は驚くほど澄んでいて、足元をすり抜ける流れの中には、小さな魚が何匹も泳いでいました。ちなみに、砂卡礑トレイルは全長約4.5kmですが、家族連れなら往復2kmほどで十分満喫できます。
途中にベンチや川辺に降りられるスポットもあり、子どもたちは小石を拾ったり、川の音に耳を澄ませたりと、自然との触れ合いを楽しめました。
「どこまで歩くか」は体力や天候次第で調整できるのも、このトレイルの魅力です。

「これ…飲めそうなレベルじゃない?」
りゅうがふざけ半分に言うと、ちょうど近くを通りかかった地元の年配の男性が、ニッと笑って立ち止まった。

「ここ砂卡礑トレイルの川の水は、昔は実際に地元の人々が飲料水として利用していたいう話があるんだよ。かつてこの地で暮らしていた人々にとっては、これが日常だったんだよ。」
3人そろっておじさんの話を聞いて驚きました。そのおじさんは手をひらひらさせながら、続けました。

「今はもちろん、衛生や安全の観点から飲用は禁止されているよ、それに上流の方に猿がいるから、水質も安全も、気をつけた方が良いね。」
地元の人の飾らない言葉が、その自然との“ちょうどいい距離感”を私たちにそっと教えてくれたように思います。この澄んだ水が“命をつないでいた水”だったと知るだけで、景色の見え方が少し変わる気がしました。
思わぬ寄り道|地元の人に教わった隠れカフェ
帰り道、砂卡礑トレイルを歩き終えた私たちは、谷に沿ってしばらく無言のまま歩いていました。疲れていたというより、あの景色の余韻を、誰もがそれぞれの心で反すうしていたのだと思います。

「ママ、なんか喉かわかない?スッキリするの飲みたくなってきた…冷たいの」

「あっオレも飲みたい!」
私も子どもたちと同じ気持ちでした。足の裏にはほどよい疲労感、陽に照らされた頬はほんのり熱を帯びていて、水分というより“ご褒美”のような飲み物を欲していました。
ちょうどそのとき、道端に小さな売店が現れたのです。棚には乾物やローカルなお菓子が並び、店番のおばちゃんがこちらに気づくと、にこやかに声をかけてきました。

「上のほうにカフェがあるよ。ちょっと階段だけど、景色がいいよ」
細い石段をゆっくりと上がっていくと、見えてきたのは木のぬくもりを感じる小屋と、その横に張り出したテラスがあります。誰かの秘密基地のような雰囲気に、思わず「わぁ…」と声が漏れました。
テラスからは、深く削られたV字の谷と、その底を流れる川の輝きが見下ろすことができました。さっきまで歩いていたトレイルが、小さな線のように見えます。その広がる景色に、言葉はいりませんでした。
私たちが注文したのは、手作りの金柑茶と梅ジュースです。素朴な陶器のカップに入って運ばれてくるその様子に、りゅうが目を丸くします。

「お、なんか…めっちゃ“地元感”あるな」

「こういうのが一番おいしいんだよ」

「甘酸っぱくて、山の味がする…」
その言葉に、私とりゅうは思わず顔を見合わせて笑いました。

「“山の味”って…詩人かよwww」

「だってほんとにそうなんだもん」
私が頼んだ梅ジュースは、キュッと酸味がきいていて、旅の疲れを一気に洗い流してくれるような味。カップの縁に小さな水滴が光っていて、それがなんだか印象的でした。

「ここ、いい締めだね。あの渓谷に乾杯、って感じ」
梅ジュースに炭酸を入れ美味しそうに飲むりゅうの言葉に、私と花菜はうなずきながらカップをそっと持ち上げました。
ほんの数百メートル、道を外れただけなのに──そこには観光地の喧騒から切り離された、静かな“余白”のような時間が流れていました。飲み終えたその味は、今日の旅をそっと包んでくれる“エンディングの余韻”のように感じられたのです。
タロコで感じたもの|自然と、家族と、自分と
「ねぇ、ママ。今日、いっぱい歩いたのに、なんか不思議と疲れてないね」帰りのバスの中で、花菜が窓の外を眺めながらぽつりとつぶやきました。日が傾きかけたタロコの山並みが、遠くにうっすらと霞んで見えます。私はその言葉に、小さく笑って答えました。

「自然に癒されたんだよ、きっと。あの谷の風とか、水の音とか……それが全部、私たちの中にしみこんだのかもね」

「てか、あの橋の上で見た景色、やばかった。あの音のない時間、頭から離れない…」
たしかに、渓谷の真ん中に立って感じた静けさ──あのとき、風の音すら遠く、私たち3人だけが世界から切り離されたような感覚になりました。岩がそそり立ち、水が透明な音を立て、ツバメが谷を横切っていくさまは大自然そのものでした。

「生きてる地球って、こういうことなんだね」
花菜がそう言った瞬間、私は何も言えなくなりました。観光地としての“タロコ”ではなく、あの日私たちが出会ったのは、“地球の鼓動”そのものでした。深い峡谷の呼吸、岩肌を叩く水の響き、目が合った地元の人の微笑み──どれもが観光ガイドには載っていないけれど、心の奥底に静かに根を張るような、確かな体験だったのです。
私たちがタロコ峡谷へ行った行き方と、ポイントをまとめてみました。私たちも次回からは必須で用意しようとメモしました。
🗺️ タロコ峡谷(太魯閣渓谷)観光ガイド
📍 場所
台湾・花蓮県 秀林郷
▶ Googleマップで見る
🚆 アクセス方法
<台北からの行き方>
・台鉄(自強号または普悠瑪号)で「台北駅」→「花蓮駅」(約2時間10分)
<花蓮からの行き方>
・花蓮駅からバス302番でタロコ峡谷入口まで(約1時間30分)
・タクシーまたはレンタカー(約30分)
🎟️ 料金
・入園料:無料(ただし、一部の特定エリアは有料の場合あり)
⚠️ 注意点
・地震の影響で一部トレイルや施設が閉鎖していることあり
・落石の危険があるため、ヘルメットの着用を推奨(ビジターセンターで無料貸出あり)
🎒 持ち物
・歩きやすい靴
・飲料水
・軽食
・虫除けスプレー
・雨具(軽量のレインジャケット)
・日焼け止め
・帽子・サングラス
・ヘッドランプまたは懐中電灯(トンネル内で使用)
まとめ|記憶に沁みる“無音の風景”──タロコが教えてくれたこと
タロコ峡谷は、ただの観光名所ではありません。家族で歩いたからこそ気づけた、自然の息遣いや、子どもたちの成長、そして自分自身の心の変化がお金には変えられない、大きな収穫でした。
都市の喧騒を離れ、家族だけの時間をゆっくりと刻める場所でした。「また来たい」と思わせてくれる理由は、絶景だけでなく、現地で出会った人々の温かさや、旅の中で生まれる“家族の物語”があったからだと思います。
何かを“する”のではなく、“感じる”ことが大切になる旅ができる場所だと実感しています。これから訪れる方には、ぜひ“自分だけの発見”を大切にしてほしいです。
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